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 大沢在昌を読むきっかけは、ご多分に漏れず『新宿鮫』(1991年)から(^^;)これまでも海外を真似たハードボイルド小説はいろいろあったが、これがピカ一面白かった(^^♪国家公務員採用I種試験合格のキャリア組からドロップアウトしたという主人公・鮫島の設定が当時新鮮で、ドラマ『相棒』の杉下右京が同じ設定で登場してくるのは『新宿鮫』の10年後だった。いまでは警察小説というジャンルが確立しているが、『新宿鮫』がほとんどその嚆矢ではないかと思う。
 以来、アルバイト探偵シリーズなど大沢の既刊本を漁り、『新宿鮫』シリーズも追いかけたが、『新宿鮫 無間人形』(1993年)を最後に離脱した。『新宿鮫』の成功により、類似のハードボイル小説が雨後の筍のように出没したため、別に大沢が悪いわけではないのだが、このスタイルにうんざりしはじめたのである(^^;)したがって、これは30年ぶりの大沢作品となる。これがまた面白かった(^^♪2013年発表の一作だが、大沢在昌は健在であった(^O^)ただし、警察小説ではあるが、往年のハードボイルドではない。
 物語はN県警察学校校長を最後に退職することとなった荒巻警視が、送別会の宴席で後輩の刑事たちにせがまれ、36年前に起きた「あの話」を語り始めることで、幕が上がる。あの話とは、昭和34年(1959年)にH島で満月の夜に少女が行方不明になり、翌朝水死体で発見された件。H島の派出所に着任して間もない荒巻巡査は、事故として処理されたこの件に、わずかな異変を感じ、先輩巡査には知らせず、密かに背後関係を調べ始めるのだった。H島はM菱の支配する海底炭鉱の島で「軍艦島」呼ばれていた。島はM菱の職員、石炭を掘る鉱員、その他の雑務を担う組夫という階級社会であり、その壁に阻まれて新米警官の捜査は困難を極めるのだった。もちろんN県は長崎県、H島は端島、M菱は三菱だ。フィクションとはいえ、関係者に気を使ったのだろうか…(笑)
 上下の二分冊だが、一気読みだった(^^♪抒情的なタイトルからもわかるように、これまでのハードボイルドものとは一味違った読後感が楽しめた (^O^)