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 ナターシャ・グジーを知ったのは、偶然も偶然。徹夜明けでテレビをつけたら、NHKで「視点・論点」という番組をやっていたのだ。10年以上も前の8月6日、「広島の原爆の日」の早朝だった。若く美しい女性がたどたどしい日本語で、チェルノブイリ原発事故での被爆体験を語っていたのだ。語り終えると、竪琴のような見知らぬ楽器を爪弾きながら、木村弓の「いつも何度でも」を歌い出した。もうビックリ!この曲は宮崎駿のジブリ映画『千と千尋の神隠し』の主題歌だ。それを木村弓より上手に歌ったのだ!会話はたどたどしいが、歌の日本語は完全にネイティブの発音で、実にきれいな歌唱だった。ウクライナ人歌手・ナターシャ・グジーは私に鮮烈な印象を残した(^^♪
 その後もたまに彼女の名前は聞いていた。あれだけ日本の歌を歌えるなら、来日コンサートも人気があるのだろう。そう思っていたのだ。去年たまたま、YouTubeで彼女の「防人の詩」を聴いた。
 聴き惚れた!この歌は東映の戦争映画『二百三高地』(1980年)の主題歌。さだまさしの作詞作曲だ。日露戦争は簡単に言えば、中国への侵略の際、遼東半島の権益を日露のどっちが奪うかという戦い。最初から大義などないのだが、例によって戦死を悲しくも美しく描く、いわゆる“散華”の映画になっているのだ(^^;)だから、その主題歌になどとくに関心はなかったのだが、ナターシャ・グジーの歌には驚いた。彼女が歌えば、この歌は完全な反戦歌となって心に響いてくるのだ。
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 これはぜひ生で聴きたい!そう思って、公演スケジュールを調べたら、すでに全公演が終了していた。が、おまけに、思いがけないことも判明した。彼女は日本に住んでいて、日本人と結婚しているらしいのだ(^^;)なにそれ!?てっきり、公演のたびに来日していると思ってたじゃないのぉ…(笑)
 ならば今年、どこかで聴くチャンスが必ずある。そう思ってた矢先の2月、ウクライナがロシアに侵略された(-_-)大変なことになった。祖国に戦火が広がったのだ。彼女はチャリティーコンサートを開いたり、いくつも支援プロジェクトを立ち上げたりと大忙しとなる。
 そして「CFU47 希望の大地」と名づけたチャリテイーツアーも開始された。全国47都道府県を巡るコンサートだ。私が昨日出かけて行ったのは、その33番目の神奈川県の回。横浜なら何とかなる(^^♪それに、“反戦歌”としての「防人の詩」を歌ってくれることも信じて疑わなかった(^O^)
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 会場は横浜の先、京急線の上大岡「ひまわりの郷」。3階建ての駅ビルの上に、そっくりコンサートホールが乗っかった、不思議な造りのホールだった。彼女は紅い刺繡のヴィシヴァンカ(ブラウス)に紅いスカートで登場。姿勢がよく、凛としてかっこいい(^^♪ウクライナ語の「木の根」という歌からコンサートは始まった。透明な伸びのある歌声が美しかった。バンドゥーラ(竪琴)をゆっくりと床に置く仕方、バンドゥーラをそっと抱え込む様子、水で口を湿らせる仕草などが所作としてきれいで、たとえは変だが、茶室の茶人を見ているようだった。
 歌ばかりに目が行ったが、バンドゥーラの演奏も素晴らしかった。彼女の愛器は8キロ、63弦もあるらしい。途中のチューニングも大変そうだった(^^;)4曲目が「いつも何度でも」、そして5局目が待望の「防人の詩」。歌声に感情を揺さぶられ、酔った。

 ステージで一人、竪琴を奏で、歌い、全国を回って聴衆を感動させる。まさに吟遊詩人である。歌い終わって"「防人の詩」は私にとって大事な歌になりました"とナターシャは言った。はい、そう聴こえていますよ♪